中高年男性、いびきに注意 「無呼吸症候群」の恐れも
いびきは狭くなった気道の部分が呼吸によって振動することから起こる。眠ると筋肉の動きが弱まって舌などの軟らかい部分が垂れ下がる。あおむけで寝ると重力の影響を受け、さらに気道が狭くなりがち。そこに無理やり空気を通そうとすることで音が出る。
スリープクリニック調布(東京都調布市)の睡眠の専門医である遠藤拓郎さんは「日本人はいびきをかきやすい人種」と話す。欧米人に比べて顔の凹凸が少なく、口と喉の奥までの距離が短い。もともと気道が狭い体形だという。
そんな日本人の中でも最も危ないのが中高年の太っている男性だ。年を重ねるにつれ筋肉の力が弱くなる上、肥満で喉の奥にも脂肪がたまり空気の通り道が狭くなる。「40代以上で太っている男性は自覚が無くてもいびきを疑った方がよい」(遠藤さん)。女性は女性ホルモンの影響で筋肉が緩みにくく、いびきをかく人が少ないとされる。
鼻で呼吸の癖を
根本的に治すにはダイエットが不可欠だが、ライフスタイルの改善など粘り強い努力が求められる。目の前のいびきをすぐに抑えられる方法はあるか。
遠藤さんは口の上下にばんそうこうを張る方法を勧める。口を開けて寝ると舌がだらりと垂れ下がり、いびきをかきやすい。強制的にばんそうこうで口を閉じ、鼻呼吸の癖を付けることでいびきを防ぐという訳だ。ただ、鼻が詰まっている人は呼吸が苦しくなるので注意が必要。
横向きで寝るのも効果がある。あおむけに比べて重力の影響を受けず気道が狭くなりにくい。うつぶせは内臓を圧迫してしまうことがあるが、横向きだとその心配は少ない。
「いびきをかく人は高い枕が好きな人が多い」と話すのは寝具メーカー、ロフテー(東京都中央区)の矢部亜由美さん。あおむけで寝る際、枕が高すぎたり低すぎたりすれば、呼吸が苦しくなっていびきをかきやすくなるという。「リラックスして立った姿勢のまま、横になって寝るのが理想。人それぞれの体形や首のカーブなどによって適した枕の高さが違う。実際に試して選ぶのがよい」。横向きで寝るのに向いている高さの枕もある。寝心地が悪いと感じた人は、寝具を変えてみるのも手だ。
慢性だと体に害
いびきは疲れているときやお酒を飲んだとき、筋肉が緩んで一時的に発生することもある。ただ、慢性的ないびきは健康に害を及ぼしかねない。
SASの危険性について啓発活動をする特定非営利活動法人(NPO法人)の睡眠時無呼吸症候群ネットワーク(東京都杉並区)副理事長の渡辺了之さんは「全国に約200万人の患者がいるとされている」と語る。
患者は医師の治療を受けた方がいい。同ネットワークや日本睡眠学会のホームページで医療機関が紹介されている。顎を前方に突き出させるマウスピースや、マスクから空気を送り込み喉を広げる装置「CPAP」などの治療法がある。いびき対策のサプリメントも販売されている。渡辺さんは「医師とよく相談して個人の状態に合わせた治療をすべきだ」と訴える。
いびきは放置していても自然に治ることはないという。眠りが浅いと太りやすい体質になるので、ひとまずいびきの症状を改善し、ダイエットに励む。それが自分自身のためにも家族のためにも大切だ。
身近な人が気をつけて
夫のいびきが原因で別室で寝たことがある妻は47%――。帝人在宅医療(東京都千代田区)などが運営するSAS広報委員会のアンケート調査でこのような結果が出た。多くの妻が夫のいびきを不快に感じていることがうかがえる。
調査は2011年2月に20~60代の既婚女性1千人から回答を得た。夫のいびきの頻度を聞いたところ、「毎日(慢性的に)」が36%、「ほぼ毎日」が40%と8割近い夫がいびきをかいていることが分かった。別室に寝ることが「頻繁にある」は30%、「たまにある」は17%だった。
悩んでいても実際に夫のいびきを治そうとしている妻は少ないようだ。いびき防止予防グッズなどを購入したことがあるかどうかは「全くない」が72%で、「たまにある」の15%を大きく上回った。受診などを促した経験がある人も少なかった。SAS広報委は「いびきは自分で気付かないこともあり、身近な人からのアプローチが重要」と呼びかけている。
by[日経プラスワン2011年10月15日付]