パナソニック自動車戦略の成否
巨大メーカーのパナソニックですが、自動車分野への参入障壁は高く、その成否に疑問を呈する声があるのも事実です。ただ、私はパナソニックが自動車分野でのし上がる力は十分にあると見ます。大きな弱点を抱えている一方で、現時点でそれなりに強い領域を多く持つからです。
少し前になりますが、名古屋学院大学商学部の佐伯靖雄氏に、「電子化・電動化で崩れるケイレツ」と題した解説記事を「日経Automotive Technology」誌に寄稿していただきました。クルマの電子化と電動化に関わる部品をどのメーカーが手掛けているのか、国内市場を対象にして網羅的に調べて分析したものです。
佐伯氏は(1)センサ、(2)電子制御ユニット(ECU)、(3)アクチュエータの3分野に分けて参入しているメーカーをまとめました。結果を見ると、デンソーと日立グループの日立オートモティブシステムズ(日立AS)、三菱電機の3強にパナソニックを加えた「3強+1」と言える状況でした。
弱点は明白
(1)のセンサ分野の全42部品のうちデンソーが24部品、ドイツBosch社が17部品、日立ASが16部品、三菱電機が14部品。それに続くのがパナソニックで、10部品でした。一方でホンダ系をはじめとした上記以外のメーカーは5部品程度にとどまります。パナソニックは上位メーカーにまだまだ及びませんが、ホンダ系に勝り、十分に戦える位置に付けています。
(2)のECU分野は全39部品のうち、デンソーが31部品と9割近くに参入して圧倒的。次いで日立ASが22部品、三菱電機が18部品、ホンダエレシスが14部品、富士通テンが12部品。その後にパナソニックで10部品。まずまずの位置と言えるでしょう。
弱点は明白で、(3)のアクチュエータ分野です。全40部品のうち、パナソニックは全くと言っていいほど参入できていません。とはいえ、同分野は(1)と(2)とは異なり、3強メーカーですら苦戦気味。デンソーがもちろん強いのですが、全40部品のうち14部品への参入にとどまります。子会社のアスモを加えても18部品で過半に達しません。日立ASも13部品。三菱電機は7部品に過ぎません。
自動車分野で長年にわたって電子技術を手掛けてきたメーカーですら、機械部品の比重が高いアクチュエータの開発には手こずっているのが実情。それでもパナソニックが本格的に自動車分野に挑むというのであれば、アクチュエータ分野を手掛けない選択肢はあり得ません。
既存メーカーにない発想を
どうするのか。家電機器のアクチュエータ開発に長い経験があるので、自社で手掛けるのも一案。ただし、パナソニックはその手段を積極的に選ばないようです。2013年1月の「International CES 2013」で、同社は車載インバータ事業に参入すると発表しましたが、アクチュエータ部品の代表と言える駆動用モータは他社製にするとしました(Tech-On!関連記事)。
家電機器のモータと「電力の大きさや求められる信頼性などの点で自動車を駆動するモータは全く別モノ」(パナソニック)と、冷静に自社の実力を分析した結果です。となれば2018年までのわずか5年で売り上げを2倍にするという目標を達成するには、提携なり買収なりして他社の力を活用すると考えていると見るのが自然でしょう。
お手本はドイツContinental社でしょうか。同社はもともとタイヤメーカーでありながら、Alfred Teves社やMotrola社の自動車部門などを買収して世界有数の部品メーカーに成長しました。
今年は東京モーターショーの開催年に当たります。CESで津賀社長は約1時間に及ぶプレゼンテーションの中で自動車分野に力を注ぐ方針を示しました。ただし家電機器の展示会であるCESはあくまでも自らの土俵と言える場所。今度はモーターショーという今後のライバルメーカーがひしめく他人の土俵の中で、新しい技術や戦略の発表に期待したいところです。
私がパナソニックに特に期待するのが、世界の消費者のニーズをいち早く捉えた新しい提案です。同社は家電メーカーとして最終製品を長年売っており、新興国市場を含めた多くの消費者と接点を持っています。家電機器と自動車の消費者は重なる部分は多いはず。その強みを生かせば、既存の自動車部品メーカーにはない発想や視点から技術を生み出せるはずです。
byテクオン